ブログ

蓬莱通信

シフォンケーキディンプル

「兎に角何もかも初めてのことだらけ。店を持つのも初めて。施主となり、工事を依頼するのも初めて。ただし美味しいケーキを焼き、お客様に満足して頂く自信はある。故に思いの予算で、ある条件下の決まった場所で、店さえ創ってもらえば後は自分で、切り開きます。」という非常に意志強固に目標を掲げ情熱的なその初々しい経営者にすっかり感染させられた工事顛末記に今回はお付き合いください。
このお店のホームページはこちらから。http://www.cake-dimple.com/

 

Act1 ごみの山。
 ある日、一本の電話が鳴った。
「ケーキショップの開業を考えています。相談に乗ってもらえませんか?場所は確保しています。ただ倉庫代わりになっているので不用品の処分からはじめなければなりません。」

私はその不用品のことは余り気に留めずに相談に乗ることにした。通常店舗改装(用途変更)の工事の場合、解体工事と共に多少の不用品はまとめて処分することが多いからである。が、今回は少し様子が違っていた。

Act2 水道がない。電気も無い。
 現場に打合せに行くと外観はとてもきれい。だがシャッターを開けて中へ入ると?!「不用品?ごみ?えっ使うの?いらないの?」以前のベーカリーショップの内装をほぼ残した状態の空いている床スペースに足の踏み場も無いほどの不用品や大型ごみ、物置に仕舞いこまれるパターンの生活品が乱立していた。(すごい。これは仕事の前の一仕事パターンだな。と思いつつ)「店舗だったので大型のエアコンが残置。動力電源がある。」と認識し、工事は二次側のみで、安価にいけるな。と調べると外壁面で電線がぶっつり。無い!「お店を閉めたときに閉栓したらしいです。」と施主が言う。オール電化住宅の離れのようなスペースが現場の為、ガスが無いのでオーブンなど火力機器は電気に頼らざるを得ないので、これを電灯電源だけで賄うのは少し厳しかった。「条件が悪くなった。」ただ彼女(施主)は「能力的に不満ですが100Vの機器で検討しています。お店造れますか?」というので、どれほどの予算が必要か全く検討のつかない彼女の提示予算に少々心配はあったが、「限られた条件と予算でやれることをやるのが私の仕事の基本姿勢です。」と着手を約束してしまった。ごみの山の下の見えない床には(厨房を造る上でもう一つ肝心な)排水設備が無いということをその時私は知る由も無かった。

Act3 えっ買っちゃうの?
 結局、予算の競合からその不用品については彼女の別手配の専門業者に引き取ってもらう事になり、私が着手するのは旧ベーカリーショップの解体工事からとなった。ごみが無くなったところで設計図を打合せるために現場へ行って、私はショックを受けることになる。手洗い器がついているのに排水が無いのだ。正確に言うと厨房が無い売り場だけの店なので手を洗う目的だけに簡易排水しかとっていなかった。新しい厨房からの産業排水をその排水口に接続する事は不可能で、無いに等しかったのである。一時側下水道工事が必要になる。店舗の床と道路を掘り倒し公共下水管に新しく接続しなければ。とんでもなく大工事である。しかも立地が店舗つき住宅のような物なので一軒に2排水は市申請許可に時間が掛かる。ならばと母屋の最終枡に放流を考えるが、坂地の立地で店舗スペースより母屋は高地であるため逆勾配となり、ポンプアップが必要となり高額工事になるのと、店舗面積を切迫する事になる。2通りの見積をとって検討するがどちらも同じぐらい費用がかかり、結局新排水を掘る事となった。これで営業許可は排水許可後の必要工期後となり、オープンできる最短日数もここで出現した。現場の現況が次第にあらわになり予算の割り振りがはっきりしてくると同時に私にも彼女にも出来うる事が見えてくるようになった。私は思わぬところで予算を食いそうなので、厨房機は中古品を薦めていた。そしてある日彼女はあるリサイクル業務用品店で、理想のパートナー(オーブン)に出会ってしまった。私にとっては最悪?(笑)の瞬間でもあった。「えっ買っちゃうの?それ、動力やんか!!」

「確かに予算は更にやりくりが大変になり工事は大変かも知れないが、店は借り物。機器は資産。丁寧に使えば次も持っていくことが出来る。」彼女の考え方に私は素直に納得できた。私は「確かにイニシャルコストである工事費はアップするかもしれないが、ランニングコストや、火力のパワー、安定性は動力機器のほうが一枚上手であり、生産性も高い。」と付け加え賛成することに考え直した。やってしまえばこちらのほうが店の営業には有利である。ただし、彼女には我儘代金?として、少しだけ予算の増額をお願いした。  

 

Act4とりあえず始めましょう。
 店のデザインもだいぶ練りあがり厨房のレイアウトも決定した。そろそろ工事に取り掛かっても大丈夫な内容まで詰める事が出来た。

が、彼女は気が多かった。
店のインテリア(演出、雰囲気)について、毎日意見が変わる。打合せを繰り返し資料を提示し何度説明しても目の前でリアルに具現化されないとピンと来ないらしいのである。私の空間に対する経験値と、彼女のそれとは量が全然違うので仕方ない事である。辛抱強く付き合うしかなかった。またそれをいい加減にしてはいけないと彼女の姿勢から感じた。

しかし大変な作業の中でよい変更も多数あった。
例えば冷蔵庫。当初業務用コールドテーブルを設計図に盛り込んでいたが料理屋の食材に比べてケーキ店の場合要冷蔵の食品は小さい物が多く、かさはないが種類が多く、温度帯を幅広く設定したい。この場合業務用ではそれぞれの温度帯について、冷蔵庫を用意しなければならなくなり場所を食う。値段も高い。ならば家庭用大型冷蔵庫のほうがオールインワンで、場所も食わないし何より家電店で賢く安価で仕入れる事が可能である。しかも冷凍庫と製氷機を厨房から追い出してくれるのだ。他にも旧ベーカリーショップの什器をリフォームして、コストを抑えるなど色々と二人で意見を出し合って始末した。相変わらず雰囲気についてはいまいち理解できずに苦しむ彼女を見て、「とりあえず工事を始めながら、仕上げを詰めていこうか?」と言い出した私に乗せられ、着工したので、彼女は始終工事を見学に来なければならなくなってしまった。

Act5間に合うのかい?
 工事は始まったが工事が進むに従って、段々図面の内容が形になっていくのを見て、彼女のイマジネーションがどんどん膨らみこうしたい、ああしたい。がはっきり出るようになってきた。「テントは黄色い色がいい。」「ロゴはこれを使いここに貼りたい」「壁をこういう感じに選んで下さったので、床はこの感じの方ががいい」彼女が私に対して注文する内容が日一日と具体的になっていくので頼もしく思えた。相変わらず突然の変更(そんなことして間に合うのか?という内容もあった)はあったがいつの間にか私は娘の成長を喜ぶ保護者のような妙な気分になってきたのもこの頃である。そして、我が事のように「オープンしたら流行ってくれると嬉しいな」と、ケーキの包み紙や売り出し方や、およそ工事屋には関係なさそうな内容のアイディアまで発言してしまっている自分がそこに居た。

Act6おー店らしくなったぞー
 水道工事が一番遅れていた。市申請許可には決まった日数が必要な為、他の工事種目が進んでも水道の要許可後着手の工事だけは置き去りにされてしまうのである。外側の工事が全体的に遅れて行き、最後になった。玄関扉はアンティークなアクセントで古建具を使用し、コンセプト?に当初あった「一見、ケーキ屋らしくない店構え」を実現してあげようとしたが結果的には彼女のケーキ創りに対する情熱的な姿勢を反映した「らしい」店構えに修正した。安価だが「らしく」外部のイメージを変身させる為、ウッドデッキをイメージした木材を多用し、アンティーク建具と雰囲気あわせをし、下水道放流枡が下水本管の位置の関係でどうしてもアプローチに設けなければならないハンデもさりげなく木材で、フォローした。そんな事でようやく店は完成した。ちなみにケーキのお味について、まだ一言も発言していない事に気づいたが、オーブン慣らしのための試作も含め、工事中に随分御馳走になったのでこの場をかりて、彼女にお礼を言わせてもらおう。「ご馳走様でした。笑顔と合掌」

彼女のホームページはこちらから。http://www.cake-dimple.com/

 

おわり

「菓子ケーキ店」の関連記事はこちら